歯科技工所に外注するとき、最初に確認しておきたい5つのこと

はじめまして、森下拓真と申します。

歯科技工士として17年働いてきました。
最初の10年は神奈川県内の中規模ラボで、クラウンとブリッジを中心に手を動かしていました。
その後はデジタル技工に振り切ったラボへ移り、CAD/CAMとミリングの立ち上げを担当しました。

今はフリーランスの技工士として、いくつかの歯科医院と直接お付き合いをしています。

技工所側に長くいると、取引が長く続く医院と、半年ほどで自然消滅する医院の差が見えてきます。
差がつくのは、技術や価格の話より手前の段階です。
最初のやりとりで何を確認し合ったか。
だいたいそこで決まっています。

そしてもう一点、いま整理し直す理由があります。
2026年10月1日から、歯科技工指示書に「歯科技工所番号」を記載する仕組みが始まります。
外注先を確認するときの前提が、この秋に一つ増えるということです。

この記事では、技工所を新しく探すとき、あるいは今の外注先を見直すときに、私が医院の先生方へ「先に聞いておいてください」とお伝えしている5点を整理します。
数字は出典と調査年を添えて書き、まだ言い切れないところは言い切らずに書きます。

外注先を1軒に絞っている医院は、実は少数派です

本題に入る前に、前提をひとつ共有させてください。

厚生労働省の「歯科技工士の業務のあり方等に関する検討会」が2026年3月に公表した資料に、日本歯科医師会の会員1,319名を対象としたウェブ調査(調査期間は2026年1月16日から27日)の結果が載っています。
そこに、歯科診療所が委託している歯科技工所の数の分布が出ています。

委託している技工所の数割合
1箇所15.5%
2箇所30.1%
3箇所34.0%
4箇所11.2%
5箇所以上8.8%

最も多いのは3箇所で34.0%でした。
1箇所だけという医院は15.5%にとどまります。

同じ調査では、1日に発行する歯科技工指示書の枚数は「1枚から5枚」が50.5%で最多でした。

この分布を見ると、技工所選びは「今の1軒を切って別の1軒に乗り換える」という話ばかりではないことがわかります。
既存の取引を残したまま、症例の性質に応じて出し先を足していく。
実際にはそういう動き方をしている医院のほうが多数派です。

そう考えると、以下の5点は「乗り換えの判断基準」というより「新しく1軒増やすときの確認事項」として読んでいただくのがちょうどよいと思います。

確認1:届出が出ている技工所かどうか

いちばん地味で、いちばん見落とされているのがここです。

歯科技工所は、歯科技工士法第21条第1項により、開設後10日以内に、開設の場所と管理者の氏名などを都道府県知事(保健所を設置する市や特別区の場合は市長・区長)に届け出なければなりません。
これは努力義務ではなく義務で、違反には罰則の定めがあります。

ところが、この届出が行われていない技工所が存在することが、国の検討会で報告されました。
2025年8月に開かれた第5回検討会では、都道府県が届出済みの技工所を確実に把握できるようにすること、そして歯科医師が届出済みかどうかを確認できるようにすることについて議論が行われています。

2026年10月1日から「歯科技工所番号」が始まります

この議論を受けて省令が改正されました。
歯科技工士法施行規則の一部を改正する省令(令和8年厚生労働省令第63号)が2026年3月31日に公布され、2026年10月1日から施行されます。

変わるのは次の3点です。

  • 開設の届出があった歯科技工所に対し、都道府県知事等が「歯科技工所番号」を通知する
  • 歯科医師が発行する歯科技工指示書の記載事項に、この歯科技工所番号が追加される
  • 業務従事者届の様式でも、技工所で働く技工士は自分の勤務先の技工所番号を書く

すでに届出を済ませている既存の技工所については、施行日の前日までに番号が通知されることになっています。
このあたりの経過措置は、歯科技工士法施行規則の附則に条文として入っていますので、原文を確認できます。

医院側の実務としては、新しく取引を始める技工所に「技工所番号は出ていますか」と聞けば足ります。
10月以降、指示書に書く欄が必要になるからです。

裏を返すと、番号を答えられない技工所は、届出そのものが出ていない可能性があります。
確認の材料が一つ増えたと考えていただければと思います。

確認2:指示書で伝わること、伝わらないこと

歯科技工指示書に何を書くかは、歯科技工士法施行規則第12条で決まっています。
7項目です。

項目内容
患者の氏名患者を特定する情報
設計どう作るかの設計
作成の方法製作方法
使用材料使う材料
発行の年月日指示書を出した日
発行した歯科医師の氏名等氏名と勤務先の所在地
歯科技工所の名称と所在地技工所で作る場合

ここで申し上げたいのは、この7項目は「最低限」だということです。

私の手元に届く指示書で、いちばん差が出るのが「設計」の欄です。
「Br 4-6」の一行だけで届くこともあれば、対合の状態、咬合採得の条件、患者さんの年齢と性別、前回の補綴物で何が起きたかまで書き添えてくださる先生もいます。

正直に申し上げると、後者の指示書のほうが再製は少ないです。
情報が足りない分を技工士が想像で埋めると、その想像が外れたときに作り直しになるからです。

なお指示書は、歯科技工士法第19条により、技工が終了した日から2年間の保存義務があります。
これは医院側にも技工所側にもかかる義務です。

技工所を選ぶときは、初回の打ち合わせで「設計欄にどこまで書けば助かりますか」と聞いてみてください。
具体的な希望が返ってくる技工所は、指示書を読んで作っています。

確認3:納期は「ふだん」ではなく「遅れたとき」を聞く

納期の話は、たいてい平常時の日数だけで終わります。
確認すべきなのは、そこではありません。

先ほどの検討会資料には、補綴物が納品されるまでの日数の調査結果も載っています。
インレー、全部金属冠、ブリッジのいずれも「7日」が最も多く、技工士が1人の技工所でも複数名の技工所でも、9割近くが7日以内に納品されていました。

有床義歯も7日が最多です。
ただし同じ資料には、数パーセントではあるものの14日以上、20日以上という回答もあったと明記されています。

検討会自体の整理は「現状においては、歯科医療提供に支障を来しているとまではいえない」というものでした。
つまり大半は問題なく回っている。
問題が起きるのは、その数パーセントに当たったときです。

ですから、聞くべきはこちらです。

  • ここ1年でいちばん納品が遅れたのは何日でしたか
  • そのとき原因は何でしたか
  • 試適が入る症例は、日数をどう数えていますか
  • 遅れそうなときは、いつ、どの手段で連絡が来ますか

平常時の日数を答えられる技工所はどこでもあります。
遅れた事例を具体的に話せる技工所のほうが、私は信用できると思っています。

確認4:再製の費用と原因の扱いを、取引前に決める

再製が一度も起きない取引はありません。
起きたあとの扱いを先に決めているかどうかが、関係が続くかどうかを分けます。

再製の原因は、大きく3方向に分かれます。
技工物そのものの適合、医院側の印象採得や模型、そして両者のあいだの情報伝達です。
どれか一つに切り分けられるケースは、経験上そう多くありません。

厚生労働省が検討会で技工所向けに用意した調査票では、歯科医療機関との取引を中止した理由の選択肢として、料金、品質、納期、補綴物等に関する考え方の相違、そして再製作時の費用負担の5つが並んでいます。
費用負担が独立した項目になっているあたりに、この論点の重さが表れていると思います。

取引を始める前に、次の4つを口頭でよいので合わせておいてください。

  • 再製になったとき、費用は誰が持つのか。ケースごとに分けるのか一律なのか
  • 原因を確認するために、模型や補綴物を返却してもらえるか
  • 再製時の納期は、通常より優先されるのか
  • 何回まで作り直すのか。そこを超えたらどうするのか

決めにくい話なので、後回しにされがちです。
ただ、実際に再製が起きたあとに決めようとすると、どうしても感情が乗ります。

確認5:デジタル対応は「持っているか」より「回っているか」

口腔内スキャナーを導入した医院からよく受ける相談が、STLデータを受けてくれる技工所を探している、というものです。

ここで確認していただきたいのは、装置の有無より運用の中身です。

「CAD/CAMがあります」と言う技工所は増えました。
一方で、データの受け渡しをどうするか、返ってきたデータをどう保管するか、スキャンの精度が足りないときにどう連絡するか、そこまで手順が決まっている技工所は、まだそこまで多くありません。

聞き方としては、こうなります。

  • STLデータはどの方法で送ればよいですか
  • スキャンデータに問題があったとき、どのタイミングで連絡をもらえますか
  • 模型を起こす症例と、データのまま進める症例をどう分けていますか

答えが具体的なほど、実際に運用しています。

もう一つ、外から中身を見る方法があります。
技工所の発信を見ることです。

たとえば横浜市青葉区の歯科技工所が運営する株式会社T.D.Sの公式Instagramでは、義歯の製作工程や設備の様子が動画で公開されています。
どんな機械を使い、どういう手順で進めているのかが、問い合わせる前に見えます。

見学を受けている技工所であれば、一度足を運ぶのがいちばん早いです。
それが難しいときの代わりとして、こうした発信はよくできた材料になります。

5つを確認したうえで、最後に見ておきたいこと

ここまでの5点は、取引を始めるときの確認事項です。
最後に、もう少し長い時間軸の話をさせてください。

厚生労働省の令和6年衛生行政報告例によると、2024年末時点の就業歯科技工士数は31,733人でした。
免許登録者数は125,093人ですので、就業割合は25.4%です。
この割合は下がり続けています。

歯科技工所は20,278か所あり、そのうち技工士が1人の技工所が15,486か所を占めます。
全体の約76%です。

さらに、先ほどの検討会資料では、2034年の就業歯科技工士数が約2万7千人になると推計されています。
歯科医師1人あたりの歯科技工士数も、2004年の0.38から2024年には0.32へ下がりました。

この数字が意味するのは、技術や価格が合っていても、5年後にその技工所が動いているとは限らないということです。
実際、担当技工士の引退で出し先を失った医院の話は、私の周りでも珍しくありません。

ですので、最後にこう聞いてみてください。
「主に担当していただく技工士さんは何人体制ですか」。

その一言で、答えにくそうにするかどうかも含めて、ずいぶん見えるものがあります。

まとめ

歯科技工所に外注するとき、最初に確認しておきたいのは次の5点です。

  • 開設の届出が出ているか。2026年10月1日からは歯科技工所番号を聞けば確認できる
  • 指示書の設計欄にどこまで書けば助かるか。法定の7項目は最低限にすぎない
  • 平常時ではなく、いちばん遅れたときの納期と原因
  • 再製が起きたときの費用負担、模型の返却、優先納期の扱い
  • デジタル機器を持っているかではなく、運用の手順が決まっているか

どれも、技術力を測る質問ではありません。
一緒に仕事を進められるかどうかを測る質問です。

技工士の側から申し上げると、これらを最初に聞いてくださる先生とは、たいてい長く続きます。
聞かれること自体が、こちらへの期待だと伝わるからです。

そして今年は、10月1日という区切りがあります。
指示書の様式に手を入れるタイミングでもありますので、外注先の棚卸しをするにはちょうどよい時期だと思います。

最終更新日 2026年8月25日 by egetpr